日経ビジネス2014年2月10日号 86ページより梅原勝彦氏[エーワン精密相談役]の記事(先般の講演会資料)を元に私の書いた本「2020年東京五輪の年にメイド・イン・ジャパンが復活する‼!(上)~中小零細製造業の活用がメイド・イン・ジャパンを大復活させる」を検証しながら日本の中小零細製造業の問題点を見る。
梅原勝彦氏 1939年生まれ。12歳からネジ工場で働く。70年、エーワン精密設立。工作機械に取りつけるコレットチャックでシェア首位。高収益企業に育てた。
<日本の町工場はまだまだ強い
安易な値下げ要求に屈するな>
アベノミクス効果で、円安基調がすっかり定着した。
自動車をはじめとして、輸出依存度が高い大手メーカーは行き過ぎた円高が是正され、経営が随分楽になったはずだ。
しかし、町工場の多くは相変わらず経営が苦しい。仕事を発注する大手メーカーが、円高だった頃と同じように、下請け業者に対して過酷な値下げを求めてくるからだ。
懸命にコストダウンしても、浮いた利益は全部、大手に吸い取られてしまう。これでは町工場がなかなか元気にならない。
大手は益々利益を上げ、中小零細は益々経営が厳しくなる。
一億総中流から“富裕層と貧民層”への流れはアメリカと同じような方向へ向かっている。
政府が金融緩和策を取ると、一般的には富裕層、貧民層の差がドンドン開く方向になるようです。
値下げの要求に安易に応じてしまう町工場にも問題がある。「品質のいいモノは値段が高いんだ」「その値段では作れない」などと、正直に主張するのが筋だろう。
大手メーカーの購買担当者はこう切り返してくるに違いない。
「おたくがこちらの提示する金額で仕事を引き受けられないと言うのであれば、人件費が安いアジアの下請けメーカーに発注するまでだ」、と。
けれども、ガセネタに振り回されてはいけない。
日本の町工場はこれまで血のにじむ思いで、製造コストを下げ、精度を高め、納期を短くしてきた。例えば製品を10万個製造して、不良品が1つも出ないというような、すごいレベルに達している。
大手メーカーは、とにかく「安く」がバカの一つ覚えの様に繰り返しているが、本物のモノ造り=メイド・イン・ジャパンを復活させるためには、日本のこの高精度、高均一の素晴らしい部品を使う必要がある。
価格は、同じ部品を大量に発注すれば、間違いなく日本の中小はあらゆる工夫をして安くて良いモノを供給するようになる。
アジアの製造業には悪いが、日本と同じような品質や納期を、より安くより短く提供できないだろう。駄物は別にして、精密品に関しては、間違いなく日本製の方が優れている。
日本人ほど、モノ造りに適している国民はいない。海外でいくら逆立ちをしても日本のモノ造りにはかなわない。
賃金の差も、インフラ(バスや食堂、宿舎)や輸出入費、管理費(海外駐在員のコスト等)を考えれば、我々中小零細の賃金と比べれば、さほど違いは無くなってきており、この傾向は年々強まってきている。
またインドネシアの労働争議、タイの政治紛争等の問題は、新興国、新・新興国にとっては全く同様の問題を孕んでいる。
ところが、自社製品の国際競争力を正確に把握していない町工場の社長さんが多過ぎる。本来なら中国をはじめとしてアジア各国の製造業の実力をもっと正しく知っておくべきなのだが、日本に閉じこもり、現地を視察しようとしない。
珍しく視察しに行ったと思ったら、張り切るのは夜だけという人もいる。残念だ。
中国やタイの工場の実態を知る事。私は、20年前にタイで痛い目にあったこと、また10年ほど前の中国での生産の成功で、これらの国の実力値と共にこれらの国でどうしたら上手く行くのか?のポイントも学んだ。
その辺ポイントをきちっと掴んでいれば、海外でもそれほど大きなミスはしないで済む。
少なくとも中国人は、自分たちの”いい加減さ“を自ら自覚している。一般の人達が、「中国製はダメ、日本で造ったモノがいい」とはっきり言う。
このままでは、「品質で日本はアジアに追いつかれた。価格では負けている」という思い込みから抜け出せない。そして、安易に大手メーカーの値下げ要求に応じてしまう。
アジアのメーカーは、「日本の町工場は、なぜこんなに高い品質のモノを、これほど安く供給できるんだ」と、不思議がっているのが実情なのだが。
品質が中国、アジアに追いつかれた・・・と言うような報道や記事を良く目にするが、一部を見れば、たまたまそういうこともあるかもしれないが、きちっとマクロ的に見れば、これは絶対にありえないことである。
他の国から見れば、日本のモノ造りは”ミラクル“
当然、競争相手は日本にもいる。国内の町工場同士で、激しい価格競争を繰り広げている。ただ、足を引っ張り合って、共倒れにならないかとても心配だ。
日本人は、国内でも海外でも競争をして、お互いに価格を下げ合っている。
私はコスト競争が悪いと言っているわけではない。ただ同業の経営者同士で、もう少し交流した方がいいのではないか。現在は、「仕事を取った」「取られた」などと張り合って、互いに疑心暗鬼になってしまっている。
交流が生まれても、相手がライバル企業の社長さんなので、手の内を明かすようなことはないだろうけれど、無駄に相手を追い落とすような真似は減るに違いない。
たまにはお茶を飲んだり、食事したりする仲になってほしい。
中小零細企業同士、ライバル同士の交流をもっと持った方が良い。
大体、政治的に見ても、大企業と比べて99.7%を占める日本の中小零細は何の団体も連携も持たない。政治的にも非常に弱い立場だ。