講演:トヨタにおける『FCV』開発状況と2015年普及開始に向けた取り組み

トヨタ自動車株式会社 技術統括部 三谷和久氏

1月27日 信州大学繊維学部内 AREC 4階会議室

 これまで車はトヨタのハイブリット(HV)車『プリウス』を皮切りに、電気自動車(EV)そして燃料電池自動車(FCV)へと移り変わってきた。

 そしてこの講演のタイトルにあるように、いよいよ2015年、来年には、ひと頃1台1億円と言われていたこの燃料電池車〈FCV〉が500万円位で市場に出て来る。

 ハイブリット車の後は電気自動車(EV)と見ていた私の認識は、この講演で大きく変わった。

 次の車は、水素で走る燃料電池車になる可能性が高い。

 まずは、ネットから燃料電池のメリットとデメリットというテーマの項を見てみよう。

仕組みとメリットデメリット

 2009年に始まった「エコカー減税」が注目を集めたことで、ハイブリッドカーや電気自動車が広く一般に知られるようになりました。ただ、同じエコカーである燃料電池車はまだ開発中で市販されていないことから、さほど知られていません。そこでこちらでは、燃料電池車の仕組みや特徴を簡潔にご紹介したいと思います。

仕組み
一般的なガソリン車では、ガソリンを燃料としてエンジンを動かしていましたが、燃料電池車ではご覧の通り、水素を燃料電池に与えることで電力を生み出し、モーターを動かすという仕組みになっています。

なお、電気自動車(EV)もエンジンではなくモーターを採用していますが、決定的な違いは燃料電池ではなく蓄電池を用いているという点です。燃料電池車は燃料電池を用いて自ら発電を行いますが、電気自動車では発電をするのではなく、蓄電池に電力を蓄えておいて、その電力を使ってモーターを動かしています。

また、ハイブリッドカーはガソリン車と電気自動車の中間に位置する車です。エンジンも蓄電池も搭載されているため、ガソリンを使って動かすこともできますし、電力を使って動かすこともできます。各車とも異なる特徴を持っています。

この、メリットとデメリットに対して、一昨日の講演の内容で解説します。

メリット・利点

トヨタやホンダや日産などといった世界的自動車メーカーが長年研究開発を続けていることからも分かる通り、燃料電池車にはとても大きなメリットがあります。代表的なものを中心に箇条書きでまとめています

・電気自動車よりも航続距離が長い

 実用で500km以上

・電気自動車と異なり、充電が必要ではない

 水素ステーションでの充填が必要になる。一回3分程度で充填ができる。

・地球温暖化の原因となる二酸化炭素を排出しない

・一酸化炭素や浮遊粒子状物質(PM)などといった有害なガスを排出しない

 排気ガスは無害な水蒸気となり、クリーンエネルギーである。

・ガソリン車と比べて2倍以上のエネルギー効率を誇る

 水素を使用した燃料電池の大きな特長は、エネルギー効率の良さです。水素を燃やすことなく直接的に電気を取り出せるため、理論的には水素の持つエネルギーの83%を電気エネルギーに変えることができ、ガソリンエンジンと比較すると、現時点では、およそ2倍以上の効率を誇る。

・燃料となる水素は、ガスや石油やバイオマスなど様々なものから製造できる

 海水からも水素を造りだせるとのことだが、いずれにしても電気分解をするためには電気が必要となる。

 将来、再生可能エネルギーの余剰電力で水素を造り、保存することで、現在の蓄電池の容量・自然放電のロス、蓄電池自体の時間経過と共に起きる劣化等を考えると、かなり有効な電源となる。

その他

・発電しても騒音を発生しないため、走行時はとても静か

・走行時に排出するのは水(水蒸気)だけなので、環境に優しい

・補助電源を併用することで始動性や応答性を高めることができる

・普通車だけではなくバス(燃料電池バス)、・発電しても騒音を発生しないため、走行時はとても静か

・走行時に排出するのは水(水蒸気)だけなので、環境に優しい

・補助電源を併用することで始動性や応答性を高めることができる

・普通車だけではなくバス(燃料電池バス)、トラックも既に開発されている。

デメリット・問題点
続いてデメリットのご紹介です。デメリットや問題点と言うよりは、これから実用化に向けて克服すべき課題と言った方が的確かもしれません。主にコストに関連した内容となりますが、こちらも箇条書きでまとめてみました。

・燃料電池そのものの価格が高い

 ガソリンが1㍑120円(税抜き)に対し、水素は現在1人㍑100円程度で、将来60円位にはなる。

・水素の貯蔵や搬送に高いコストがかかる

 2015年燃料電池車発売に向けて、かなりの技術改良が進み、輸送、貯蔵コストも大分低く抑えられるようになってきている。

・ガソリン車ほどの航続距離は実現していない

 大阪=東京間(560km)をエアコンなどの実際の仕様条件下で余裕の無常店完走の実績がある。

・走行時の音が静かすぎる(歩行者に気付かれにくい)

 これは現在のハイブリットカーも同じで、わざと音を出す装置も開発されている。

・水素を補給するための水素ステーションの整備が求められる

大都市圏を中心とした国内市場への導入、100か所程度の水素供給インフラ網の整備が進んでいる。

三谷氏によると、今後車の主体はハイブリット車になり、電気自動車は、蓄電技術が課題で、今の様に劣化が激しいと使い物にならなくなるだろうとのこと。

そして燃料電池車は、様々な技術改良や、インフラ整備の進行によって将来的には主流になって行くであろうとのことでした。

最後に私が「安全性は?」と質問したところ、最後に一番面倒な質問が来たと言っておられたが、時間超過を気にせず結局、それから15分位熱心にお話された。

水素は危険な気体であることには間違いないが、この燃料電池車の開発に当たっては、考えられるあらゆる危険性を考慮して開発しているとのことでした。

まず、車が衝突事故で大破した場合でも、水素ボンベはそのクラッシュ車両からポロリと出て来るような頑丈さで造られているとのことです。今後は鉄と比較すると 比重で1/4、比強度で10倍、比弾性率が7倍ある「炭素繊維」も使うだろうとのことです。

また、火災時の対応として、給出口が熱によって溶けやすい材料を使い、火災で熱によって熱せられると、この給出口が溶けて、水素を少しずつ排出し燃やしてしまうような構造にし、爆発を防ぐ工夫がしてあるとのこと。

また、福島原発の水素爆発まで話が及び、福島原発は、あのメルトダウンで建屋内が1000℃の状態で水を注入すれば、水は酸素と水素になり、水素が充満すれば爆発するに決まっており、あれは本当に、事故に対する備えも、訓練も全くなされていなかったと考えざるを得ないとのことでした。

またこのプロジェクト内では「想定外」という言葉は禁句。

そして「絶対安全」ということはありえず、あらゆる場面を想定した”モノ造り”を心掛けているとのことでした。

これぞ「日本のモノ造り」・・・と云う感じであり、素晴らしい取組かと思いました。

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久しぶりの講演

 久しぶりの講演だった。

 今回は、私の新しい著書「2020年東京五輪開催の年にメイド・イン・ジャパンが復活する」という本の内容を初めて講演した。

 今回は、以前当社の近くの支店長だった上田信用金庫の金森専務理事が昨年、当社に見えられた際、私の「メイド・イン・ジャパン」論に興味を持たれ、今回、上田市の「上田信金塩田支店」さんの30周年の記念式典での私の講演であった。

 この上田市の塩田というところは、実は私の生まれた場所であり、そのことを告げると50名程の参加者の方々の雰囲気が少し和らいだ様子。

 今回は、1時間ということもあり、いつものNHKの親父バンドのビデオでの会社紹介は無しにして、当社の高密度コイルの写真と現物で、どのようなモノを造っている会社かを知って戴いた。

 話の内容は、下記の通り。

1、なぜ、国内回帰か?

中国,東南アジアの賃金が高騰し、企業は”中国プラスワン“と云うミャンマー、バングラディッシュ、ラオス等の新・新興国進出を進めつつあるが、新・新興国もインフラの問題もあり、多くの企業が群がれば、たちまち賃金は高騰する。正にイタチゴッコであり、早急に日本へ戻すべきだ。

2、なぜ中小零細企業なのか?

20数年前のバブル崩壊後、日本の大手メーカーはこぞって中国、東南アジアに生産拠点を移し、国内は空洞化が進み、中小零細製造業は見捨てられたと同時に、”メイド・イン・ジャパン“製品が無くなってしまった。

それはなぜかというと、“部品の精度”が違ってしまったからである。

我々中小零細のモノ造りは、とにかく常に公差のど真ん中を狙ったモノ造りをする。この高精度な部品を集めたモノが”メイド・イン・ジャパン”と呼ばれるものであった。

この20年余りの間に、日本の1/3の中小零細製造業が消えてしまった。

3、なぜ、大メーカーの部品造りではダメなのか?

大メーカーは中国・東南アジアで、これまで日本で調達していたような精度はなかなか出せない。結局、多少精度が落ちても問題ないと思っていた部品造りは、メイド・イン・ジャパンを失わせ、結果的に”壊れやすい“製品を世の中に提供し、韓国、中国との極端な価格戦争に陥った。

4、なぜ、組み立ては自動、部品は中小零細か?

国内の大メーカーと中小零細の賃金格差は非常に大きく、新興国と大企業の賃金格差は、永遠に縮まりそうにないため、大企業は国内では、自動化。ロボット化すべきであり、部品は海外から調達せず、日本の精度のよい中小零細の部品を使うことがポイントトなる。

また、中小零細も自動化・ロボット化を考えるべき。

京セラ、TDK、村田製作所、アルプス電気、ローム、太陽誘電、日本電産等のスマホの主要部品の生産は、国内にて、オール自動化で精度よく、大量に、高速で製作している。

食品会社の自動化(テレビ朝日「シルシルミシル」の自動化)を想像して戴きたい。

5、なぜ、日本のモノ造りはすごいのか?

島国で、農耕民族の歴史が、コツコツコツコツの精神≒文化を生み出し、これがDNAとして我々に日本人の心に沁み込んでいる。

これは、他の国が逆さになっても追いつけない、日本人特有の特性なのである。

6、なぜ、中国人は”メイド・イン・ジャパン“を欲しがるのか?

中国人の〝いい加減さ“は中国人自身が一番知っており、中国人は富裕層のみならず、一般の人達が純日本製=”メイド・イン・ジャパン”を欲しがる。

7、最終的に、日本は世界の中枢技術を席巻する。

かつて日本は、“モノ真似技術”、”応用技術“はお得意だが、”基礎技術“、”開発技術“は苦手と言われてきたが、最近では”IPS細胞“、”炭素繊維“、”カーボンナノチューブ“、”イプシロンロケット“、”小柴昌俊教授の宇宙ニュートリノの検出”、”三菱電機、NEC、AXAが協同開発した±1cmのGPS“等々の基礎技術、開発技術が続々生まれてきており、このまま進めば、日本は世界の中枢技術を席巻する。

日本は、軍事大国ではなく、技術大国を目指すべき!

8、メイド・イン・ジャパンは必ず復活する。

新興国の賃金は、遅かれ早かれ日本に追いつく。海外で生産するメリットは薄れ、地産地消、あるいは全自動による圧倒的有利な生産体制を持った国が、全世界に供給するようになる。

日本は、その方向を目指すべきであるが、間違いなく、時間の経過と共に日本にモノ造りが帰って来て、”メイド・イン・ジャパン“が復活する。

 私の言いたいのは、何かと自信を失いがちなこの日本という国ではあるが、日本人は世界の中でも、大変特殊な民族であり、これほど、人への気遣い、気配り、心遣いができる国民はいない、正に「おもてなし」の国であり、人と人との信頼感、一つところでコツコツと働く勤勉さ、まじめさが、こと”モノ造り“にとっては最高の要素であり、世界の中で日本程、”モノ造り“に適した国は無く、国民はいない。

 ・・・と言うことで、これまで中国だ、東南アジアに目を向きがちだったが、これからの日本はこの”モノ造り“を前面に打ち出し、国内でできるだけモノ造りをすべきである・・・と言うことを説いた本であり、講演なのである。

 このレジメの内容は、今回の本「2020年東京五輪の年にメイド・イン・ジャパンが復活する(上巻)」の目次と解説であり、詳しくは本を読んで戴きたいが、会場では出版者だけが買える出版本を8冊持って行ったら完売になり、もっとないか?と言われた位好評であった。

 先般、日経新聞に「東南アジアの賃金高騰に関する記事」(私が言う〝イタチゴッコ”のことが書かれていた)と「キヤノンの国内回帰の記事」(国内で全自動化すること)が立て続けて出た。

 私の書くブログや本は、世の中の様々な事象を私自身の実体験に基づく理論、そしてそれら全てを踏まえた上での私の感覚で、捉え、整理し、次に起こるであろうことを予測したことを書くため、結構面白い。

この講演会でも、ある方が、5年ほど前に私の書いた本「立ち上がれ中小零細企業」に書かれていたことが、今、結構現実となっていることが多いと指摘された人がいたが、会社的にも、10年前に「これだ!」と思っていた「高密度コイル」が、最近ようやく世の中で注目され始めてきたことなども、その間、リーマンショック、大震災で私の予想よりも4~5年遅れてしまってはいるが、その方向は間違いなかったかと思う。

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ミッテルシュタント=ドイツの中小企業

 今週の日経ビジネスの特集は、ドイツの特集であった。

 ドイツは、今やユーロ危機が叫ばれる中で際立っており、世界一の経常黒字国となっている。
 9月の総選挙で与党が勝利し、アンゲラ・メルケル首相は3期12年の欧州最大の経済大国の長期政権を担うことになった。
 ドイツは、ユーロという大きな市場をの中で、賃金上昇を抑え、長期ビジョンに基づいた改革をブレずにやり遂げてきた成果が実っている。
 反面、短期政権を繰り返し、何の有効的なビジョンもないまま来た日本は、実に20年もの間、景気低迷に苦しんできた。
 いかに上に立つ者の采配が大事かということを、ドイツと日本を比べると歴然としてくる。
 今、アベノミクスで円安・株となり、景気が良いように思える日本経済であるが、果たしてこの景気浮揚感はホンモノなのであろうか?
 それは、極めて懐疑的と言わざるを得ない。
 当社の量産ベースの低迷を含め、私の周りは、かなり厳しい状況に置かれている小さな会社が多い。
 車の関係と一部の設備関係の会社は、大分景気がよさそうであるが、その他多数の企業は、生き残るのに汲々としているのが現状である。
 
円安・株高は日本の大企業にとってはかなりの経済的インパクトがあるが、我々中小零細製造業には、殆どその恩恵が及ばないのは、日本の中小零細は直接海外の得意先との取引きしている会社はごく僅で殆ど大会社の下請で生きており、その肝心の大企業は中国、タイの人件費高騰を受け、未だにミャンマーだ、バングラディッシュだ、ベトナムだ、フイリッピンが穴場だ・・と海外生産をすることが最も有効な手段だと思っているからなかなか日本に帰って生産しようと考える企業が多くなって来ない。

 そこへ行くと、このドイツの中小企業は「ミッテルシュタント」と呼ばれ、それぞれ小さいながらもパワーがあり、直接海外との取引を積極的に行い、何と大企業並みのペースで成長し、付加価値の総額が大企業より高いという、日本では全く考えられないような状態なのである。
 
日本の中小零細製造業は、大企業の“下請”として生まれ育ってきた歴史があるが、ドイツは小さくても一個の”メーカー“として生まれ育ってきたということであろうし、ユーロ経済圏が出き、ユーロ圏内の各国への輸出が容易になったことも大きく影響しているかと思う。
 さらに日本と異なるのは、1~19名位の零細企業は日本のようには多くは無いが、高収益であり、圧倒的に多いのは中企業であり層が厚い、また一極集中せず、地方に分散しているということだ。

 このように、ドイツの中小企業は非常にスキルが高く、自立心も高い。
 日本の中小企業は、ドイツに負けない素晴らしいスキルを持ちながら、下請に甘んじてしまっている。
 また、大企業は、ただただ”小さい”と云うことだけで、そのスキルは認めてもその会社の価値は認めていないため、日本の殆どの中小零細企業は、よっぽどのことが無い限り、大きくはなれないし、高収益会社にはなれない。

 私が最近書いた『2020年 東京五輪開催の年に メイド・イン・ジャパンが復活する!!~中小零細企業の活性化が”メイド・イン・ジャパン“を大復活させる』は、大企業は生産拠点を賃金が高騰する中国、東南アジアから少なくとも”地産池消“を基本とし、日本で販売するものは日本で造るべきだ。そして、日本の優れた中小零細企業を下請けとしてではなく、パートナーとして使うようにすることが、”メイド・イン・ジャパンの復活“につながるのだ・・・と云うことを、色んな角度から見て、実証した本である。

 ドイツでは、既に中小企業は大企業のパートナーとしてのみならず、自力で他国に販売し、収益を上げるような体制が出来ているということであり、なんとも羨ましい限りだ。
 ・・・と同時に、日本の我々中小零細企業もドイツを見習って、大企業の下請けに甘んじることなく、海外との取引を活発化し、日本の大企業はきちっと、中小零細の技術を認め、単なる下請けではなく、パートナーとして、それなりの対応をすべきである。
 
 私の書いた今回の本は、奇しくもこの事を言っていた。
 実際、日本の中小零細企業が海外から注文を取ると言っても、日本の場合は言葉の問題から始まり、海外貿易の基礎が構築されていない上に、関税の問題、輸出入経費の問題等、環境的には殆ど無理な状態がある。
 どうしても、ここは大企業が海外生産の〝イタチごっこ”を止め、生産の国内回帰を促進すべき時である。
 そして、優秀な日本の中小零細企業の部品を使い、”メイド・イン・ジャパン“を復活させることが、将来の日本の経済発展に必ず繋がるのだ・・・と言うことを強調したのが、今回の本の趣旨だ。
 是非一一読願いたい。
 そして感想をお聞かせ願いたい。
 ドイツの中小企業については、この本の下巻で詳しく書こうと思っている。

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ポールマッカートニー

11月18日(月)東京ドーム

ポールがステージに現れるや否や、決して平均年齢が若くはない5万人強の大観衆が一斉に総立ちとなって、結局2時間半そのままの状態であった。

9月頃だったと思うが、早朝のテレビでポールの来日公演のお知らせを見た直後にチケットを申し込んだため、多少は前の方の席かと思ったが、チケットの席は抽選であり、抽選とかにはまるっきり弱い私は、実際東京ドームに入ってみると、1塁側スタンド席の後ろから2列目の席であり、バックスクリーンに設定されているステージの上は米粒状態であり、巨大スクリーンで見るより仕方ない状態。

これじゃーテレビで見た方が良かった・・・と思っていたが、すぐにその思いは吹きとんだ。

ポールが黒いスーツ姿でステージに現れた瞬間のこの大観衆、この雰囲気、この興奮はお茶の間では絶対に味わえない。

16,500円のチケット代は決して高くなかった。

ポールは、ビートルズ時代、非常にぶっきらぼうなジョンとは対照的に大変サービス精神が旺盛だったが、この日も最初から最後までサービス精神に溢れており、「コンニチハ!」「アリガトウ!」「タダイマ トウキョウ!」・・とたどたどしい日本語を連発し、観客の声援に応えていた。

サービス精神は選曲にも表れていた。

旧ビートルズ時代の曲が多く、これはビートルズ狂の私としては、たまらない、最初のエイト・デイ・ア・ウィーク(日本語に訳すと『一週間に10日来い』?)から、知っている曲は人の迷惑顧みず、全力で一緒にご機嫌で歌った。

またポールはやさしい。

福島の人達へ・・と“Yesterday”を演奏し、ジョン、ジョージ、前の奥さんのリンダに捧げる歌も歌うなど、亡くなった人達にも追悼の曲を捧げた。

ジョージへの曲「サムシング」を最初ウクレレで歌い始め、途中からジョージのリードギターを彷彿させるようなエレキが入り、フルバンドに移って行くところは胸にジーンと来るものがあった。

エレキのベースから始まり、生ギターを持ったり、ピアノを弾いたり、殆ど休みなしで39曲を歌い切ってしまった。

とても71歳とは思えない。

私もそろそろ歳かな?などと思い始めていた矢先のことで、これはマダマダかなり先は長い・・・と思った。

日野原先生の年まで・・・とは言わないが、75、6魔迄は、全く問題なさそう! 

「007は2度死ぬ」のテーマソングで『Live And Let Die』のフレーズを繰り返した時にステージ前で花火が炸裂、これは会場がびっくりしながらも盛り上がった。

最初から演出されているものとはいえ、3度のアンコールはサービス満点、最後の最後は『アビイ・ロード』メドレーで“ゴールデン・スランバー”“キャリー・ザット・ウェイト”“ジ・エンド”の3連打。

この辺の曲は、スタジオ音楽時代のモノであり、ライブではどうか?と思っていたが、ポールはこれを見事に再現させた。

また“キャリー・ザット・ウェイト”で、あのビートルズ時代を彷彿とさせる、一本のマイクに向かって、二人で歌う“シャウト唱法スタイル”をジョージ風のギタリストとやって見せるとドーム内は絶頂に達し、最後の”ジ・エンド“で本当にジ・エンドとなったのであった。

ビートルズは、私の青春そのもの

私のたった一つの心残り・・・・

それは47年前のビートルズ来日時の武道館ライブに行かなかったこと・・・しかし、今回のポールのライブで多少、それを取り戻せたような気持ちになれた。

『また来るね!』・・・ポールの最後のたどたどしい日本語が耳に残った。

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